日本経済新聞
H24年8月16日‐夕刊‐に記事が掲載されました。
脳脊髄液減少症 患者支援の会 子ども支援チーム主催
千葉県鎌ケ谷市のセミナー&先進医療についてです。
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脳脊髄液減少症最新療法、保険診療と併用可能に 患者の費用軽減、なお課題多く
外傷や事故により脳や脊髄を覆う髄液が漏れる「脳脊髄液減少症」。頭痛やめまいをひきおこし、学校や仕事に通えなくなる患者も多い。詳しいメカニズムは分かっておらず、心の病などと誤診されるケースもある。
昨年、ばらばらだった複数の診断基準を国の研究班が統一。治療費負担を軽くする措置も先月始まったが、対象となる患者は限られており、患者団体は支援の拡大を求めている。
「今から思えば、強く尻餅をついたことが原因だと思う」。7月下旬、減少症の患者団体が千葉県鎌ケ谷市で開いたセミナー。同県佐倉市の深沢佑美さん(33)の体験談に子供を持つ保護者や教員ら250人が耳を傾けた。
深沢さんは中学生の頃から倦怠感に悩まされるようになり、高校に入ると症状が悪化した。受診した診療科は脳外科や精神科など10以上。自律神経失調症などと診断され、薬を飲んだが、改善しなかった。1日3時間しか起き上がっていられないこともあった。
◆発見の遅れに注意 減少症と診断されたのは昨年2月になってからだ。「発症当時は病名が知られておらず、家族も理解してくれなかった。この病気のことを多くの人に知ってほしい」と訴えた。
セミナーで講演した高橋浩一・脳神経外科部長は「周囲から怠けていると誤解されたり、心の病などと誤診されたりするのは酷だ」と指摘。発見の遅れによる重症化に注意を促した。
髄液の採取や腰椎への麻酔の際、髄膜に開いた穴から髄液が漏れ、起立性の頭痛を引き起こす「低髄液圧症」は70年以上前から知られていた。近年になって、髄液圧は正常でも髄液が減るケースがあることが分かり、減少症という呼び名が普及した。
病名がクローズアップされたのは2001年。交通事故による難治性むち打ち症と髄液漏れとの関連が指摘されたことがきっかけだ。これにより減少症と診断される人が増えたが、複数の学会や医師が独自に診断基準を作ったことで、医師の診断にばらつきが生まれ、患者が振り回された。
こうした混乱を受け、厚生労働省は07年、研究班を発足させた。研究班はコンピュータ断層撮影装置(CT)や放射性同位元素(RI)による画像判定をベースとした診断基準を作成。関連する8学会の承認を得て昨年10月に公表した。
厚労省はさらに自分の血液を注射して髄液漏れを防ぐ「ブラッドパッチ療法」を今年5月、保険診療との併用を認める先進医療として承認。7月からは日本医大病院(東京・文京)や明舞中央病院(兵庫県明石市)など全国の6病院で受けられるようになった。
日本医大病院の喜多村孝幸・脳神経外科部長によると、同病院でこの治療を受けた場合、患者は従来、入院費などを含めて1回30万円の治療費を自己負担しなければならなかったが、今後は半額程度で済む。
患者にとっては「大きな一歩」といえるが、課題は山積している。
髄液は量を測ることができない。このため厚労省研究班は減少症のうち、画像所見で髄液漏れが明確に確認できた症例に限り、「脳脊髄液漏出症」として診断することとした。
◆基準合致2割程度 患者団体によると、この基準に合致する患者は2割程度。残る8割は対象から外れるといい、「減少症の解明を進め、支援の対象を広げてほしい」との要望が上がる。またブラッドパッチの保険適用を求める声も強い。
髄液漏れが確認でき、先進医療を受ける場合も注意すべき点がある。喜多村部長によると、ブラッドパッチは髄液が漏れている場所に届けば1回で効果が出る。「10回以上試す医師もいるが、2回して効果が出ないなら、別の原因を考えるべきだ」という。
脊椎狭窄症などの患者に注入すると、神経を余計に圧迫し、痛みやしびれを強める可能性もあり、施術前に十分な検査をすることが大事だ。また「症状が改善せず、原因不明のめまいなどが起きるケースもまれにある」(喜多村部長)。
厚労省研究班の代表を務める山形大(山形市)の嘉山孝正教授は「研究班の目的はまず、どの医師でも使える科学的な診断基準を作ることにあった。不適切な診断・治療による合併症を回避する道を開いた意義は大きい」と説明。「今後は先進医療の承認を受けた施設が臨床研究を重ねることで、ブラッドパッチの効果を確認する。さらにむち打ち症とされている患者のうち、どの程度の割合が減少症なのか、ということも研究し、減少症の解明を進めたい」と話している。
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◆因果関係認定は訴訟の1割 交通事故による後遺障害 交通事故は脳脊髄液減少症の原因の一つとされるが、損保保険会社が後遺障害と認定するケースは少ない。訴訟での因果関係を正面から認めた判決も少数で、患者団体などは「患者に対する補償が不十分だ」と指摘している。
脳脊髄液減少症が注目を集めた2001年以降、事故との因果関係を認めたのは05年の福岡地裁行橋支部の判決が初めてとされる。06年には鳥取地裁でも同様の判決が出た。しかし事故による外傷で髄膜に穴が開いたり、脳内の髄液が減少したりするメカニズムが十分に解明されていないことが壁となり、因果関係を否定するか、部分的にしか認めない判決の方が圧倒的に多い。
患者団体「脳脊髄液減少症全国ネットワーク架け橋(本部・鹿児島県)によると、因果関係が認められたのは訴訟全体の1割程度。松本裕介事務局次長は「診断基準がばらばらだったため、訴訟によって採用する基準が異なっている。厚生労働省の研究班がつくった統一基準で判断してほしい」と訴える。
交通事故を巡る訴訟に詳しいひびき綜合法律事務所(東京)の羽成守弁護士は「画像などの客観的な証拠がなければ、後遺障害は認められにくいという事情がある」と指摘。「症状が似ている難治性むち打ち症も自覚症状だけで認定されるのはまれ。むち打ち症との区別ができず、発症の仕組みも解明されていない現状では、司法の場で賠償を勝ち取るハードルは高い」と指摘している。
(広瀬洋平、編集委員 木村彰)